【霊視鑑定ご相談事例】お狐の導き。「倒壊した祠とそこにいた神」
目次
登山道の入り口にある赤鳥居の先の朽ち果てた祠
「ここの奥にある祠です」ある登山道の入り口にある赤鳥居をくぐって、そこから少々歩いた所にその朽ち果てた祠はあった。
とある大きな神社の管轄とは思えない程に、雑に扱われたその成れの果て。
そこにいる神も悲しそうにたたずんでいた。
そもそも、私はその日は別の所へ行くつもりで車を走らせていた。
しかし、これもまたいつもの事なのであるが、気が付けばとある稲荷の入り口にハンドルを切っていた。
こういう時は逆らわないに限る。私の車では切り替えしも離合もできない道を上って行った。
辿り着いたのは、磐座信仰の名残のある稲荷
そこにあったのは磐座信仰の名残のある稲荷だった。
磐座信仰は好きだしまあいいか、と多分駐車スペースであろう場所に車を停め、そこからまた少し山道を上った。
本殿に参拝し終えたところでとある男性が声をかけてきた。
地域の歴史に詳しい男性で、この稲荷の奥宮を勧めてきたので、「ああ、磐座信仰ですね」と答えた。
そうするとその男性は嬉しそうに、「磐座信仰をご存知なら案内したいところがある」と言った。
あまり人と行動したくない私は、正直、めんどくさい事になったと思った。
真夏の日差しが強い日だったが、歩きで行くという。
車で移動できるものなら車で移動したかったが、見ず知らずの男性を乗せるのも気が引けた。
言われるがままに付き合う事にした。
途中、地域の歴史を聞かされ、その歴史に由来する場所を案内され、私は取り繕う事もせずそれらに興味がない表情をして聞いていた。
作られたストーリーに興味はない。
つい、「でもその神ってもともと祟り神でしょ?しかもこの土地に居たくているわけでもない。本人この土地に愛着なんてないって言ってますよ。
そんな神を有難がって意味があるんでしょうか?」と口にしてしまった。
地域を愛する人なら激高するところであるが、その男性は嬉しそうに、「そうなんですよ。皆分かっていないんです。良かった、貴方を案内すると決めて」と言った。
この男性もなかなかの変人だ。
しばらく歩き、本来の形の磐座信仰がしっかりと残された稲荷へ到着した。
「皆、ここに来ると何かを理解してくれるんです。神様に対してミーハーな気持ちを持っている人も、少し考え方が変わるようです。それを見ると、連れてきて良かったなと思うんです」とその男性は言った。
ああ、確かにな。神社仏閣を、「大きいから」「有名だから」「パワースポットだから」という理由で行先を決める人はとても多いと思う。
それはそれで良いと思うし、そういう考えでも神社仏閣へ足を運ぶのは良い事だと思っているが、本来の形を知るのは悪い事ではないとは思う。
彼はそのために毎日のように、誰かを案内し、知ってほしくて色々と伝えるのだろう。
ただ、この男性は、有名どころは一応、という感じで案内はするが自分は立ち入らない。
立ち入るのも案内も稲荷がメインだ。つまり「稲荷のお使いであるお狐さん」だと理解した。
この地域の稲荷を守るお使いさんである。なるほど。うまいこと私を誘導している何かがいるわけだ。
しかしそうは言われても、私はうやうやしく参拝をしないのが本来である。
この男性の前であるからポーズぐらい取ろうかと思ったが、稲荷ではなおさら取り繕う必要もない。
いつも通り「やあ、こんにちは」と鳥居をくぐった。
その奥宮に案内されても、また、「やあ、こんにちは」と自分のスタイルを崩さなかった。
男性は無難しい顔をして黙り込んだので、いよいよ「神に対して失礼である」と言うかと思っていたのだが、しばし黙った後に「もう一つ、見て欲しい稲荷がある」と言い出した。
聞けばずっと放置されていて、朽ちていくのを見続けて心が痛んでいたが、ついにその祠が崩落した。
毎日見に行くが一向に撤去なり建て直すなりする気配がない。悲しくてたまらないので見て欲しい、との事。
やはりお使いのお狐さんだ。
「そういった事情であるならば、夜にそこへ行くので場所を教えてくれ」と言ったら、「夜に一人で行くなんてとんでもない」と男性は慌てた。
「いや、いつもの事なので気にしないでくれ」と言ったが、「言い出した手前そんな危険な事を許容はできない」と食い下がる。
いや、一人で行きたいんだが。
しかし男性も譲らないので、最悪下見という事で後日出直すつもりで、夜にその男性とその場所へ行く事にした。
またしても面倒な事になった、と思いながら夜に準備をして、今度は「夜とはいえ気温も高いままだし、蒸し暑いし、もう歩きたくないので車で」とその男性を途中で拾ってその場所へ案内してもらった。それが、冒頭にあった崩壊した祠である。
そうして、倒壊した稲荷の神と対面する
男性はずっと「悲しいなあ」と繰り返していた。
そこで私はお酒を盃に入れて、崩壊した祠に置いた。
そうしてそこでたたずんでいる神に聞いた。「どうする」その神は女性で、悲しそうな顔をして黙っていた。
「行きたい場所はあるか」これまた黙ったままだ。
ご神体はまだこの崩壊した祠の中にあるのだろう。
しかし。わりと大きい祠である事と、見事に崩壊しているのでその中からご神体を探すのは怪我をする。
「行先が決まるまでうち(の神棚)に来るか」そうする、という意思だけが伝わったので、(行先が決まるのはいつになるやら…)と思ったが、このまま放っておいては結界も壊れたこの場所で動く事もできず、それこそ魔になってしまう。
「引き取ってやる。来い」そういうと崩壊した祠から冷気が吹いてきた。
いわゆるご神気である。
せっかくなので、この面倒事に巻き込んだ男性にも体験していただこうといういたずら心が起こり、男性を前に立たせてみた。
「えっ、冷たい」と男性は言った。「それはご神気。神の気は冷たいんですよ」と答えた。
ちなみにカッコイイ事を書いているが、私はこの時だいぶ下衆な笑みを浮かべていた。
一通り完了し、その男性を送って行ったのだが、その男性曰く「こういう世界がある事は頭では理解していた。でも体験したのは初めてだ」とずっと繰り返していた。
「それは良かったですね」(何が良いのかわからないが)と答えておいた。
そして、その男性を降ろす直前に突然の大雨が降ってきた。
「あの祠にいる間降らなかったのは神の計らいというやつですね」と言っておいた。
男性は、「本当にありがとう」(何がありがとうなのだろう)と言いながら大雨の中ずぶ濡れになって帰って行った。
ちなみにその雨は男性が家に入って直ぐに止んだ。
「あーあ、あと五分待てば止んだのに。まあいいか、禊ってやつだ」
私はまた下衆な笑みを浮かべて帰路についた。この時引き取った稲荷にいた神はまだうち(の神棚)に居る。
あと数か月もあれば行先が決まるであろう。
元の場所はもう復旧はないだろう。良い場所が見つかるといいな、と思っている。