連載「霊能者かんなぎの人生」vol.2 霊能家系に生まれても、異端である
連載「霊能者かんなぎの人生」vol.2 霊能家系に生まれても、異端である
なんとなく、人生を書き綴ろうと思った事に対した理由はない。
ただ、同じような思いをしている人がいるならば、そういう人に届けば良い、そう思った。
私はカトリックの幼稚園に通っていた。
どうもそこは入るのが難しい幼稚園らしく、見栄えを気にする母はいつも鼻高々だった。
もちろん私はそんな事はどうでも良く、
ただ、そこにいるシスターや神父様たちが大好きで、
毎日楽しく幼稚園に通い、帰りは必ず教会に立ち寄っていた。
「赤チンキちゃん」
私の事をなぜかそう呼ぶ神父様は、アメリカ人だった。
多分、赤ずきんちゃんをもじった駄洒落だったのだと思うのだが、
私は怪我をしまくって赤チンキを付けているような子ではなかったので、
なぜ神父様の呼び名がそうだったのかは今でもわからない。
私は何よりも教会という空間が大好きで、
ステンドグラスやオルガン、綺麗に並ぶ長椅子が好きで、
意味もなくその長椅子に一人座っている事が多かった。
なんで皆、こんなに美しい教会に来ないのだろう、と思ったが、
まあ、幼稚園だもの。
皆、目の前の公園で遊ぶほうが楽しいよね。
その公園もまた、ちょっと変わった作りで楽しい場所だったし。
ああ、でも、懺悔室はちょっと怖かったな。
ここは自分の悔いを改めて、許しをもらう場所だよ、と言われたが、
私は、「自分は常に悪い子」だと思っていたものだから、
その懺悔室で何を悔いたら良いのかもわからないのだが、
きっと裁かれるんだ、とそう思っていた。
懺悔室の前にはちょっと錆びた銀色の四角い箱があり、
それには常に小さい赤いランプがついていた。
ボタンも何もなく、ただ、銀色の箱に赤い光。
あれを開けると何か大事なものが入っているのだろうか、と、ずっと眺めていた。
しかし、一度も神父様に、あの箱は何かを聞いた事がないのは、
きっとあの箱は開けてはいけない箱だと思っていたからだと思う。
大人になれば、あれはもしかしたら何かの配線の箱なのかも、とか思考が巡るものだが、
その当時はまだ子供だったが故に、まるでパンドラの箱のように見えていたのだと思う。
しかし、教会は綺麗なもので、
今思えばどういう結界になっていたのだろう、見事に「何もいなかった」。
教会に立ち寄ったその後は神父様と一緒に大きなもみの木の飾付けをしたり、
神父様に聖書の話を聞かせてもらったり、楽しい時間を過ごしていた。
神父様のお家には、陽気なモノノ怪のようなものがいるにはいたが、
ある意味ハロウインパーティーのような空間であり、
特に嫌な思いをしたこともなかった。
それに神父様はいつも金色の光が後ろから差していて、
「主の像よりも神父様の方が光っている」と言ったら、
「赤チンキちゃんにはご褒美をあげよう」と、神父様は大きい手作りクッキーを持ってきて、
とても温かい笑顔で、「赤チンキちゃんに神のご加護がありますように」と言って、
私のほっぺたを一回つついてから、そのクッキーをくれるのが恒例行事だった。
「私は悪い子なので神のご加護はないと思う」
と言うと、決まって神父様は、「赤チンキちゃんは悪い子なんかじゃない」と答えてくれた。
その魔法も、家に帰れば解けてしまうものだから、
私はまた魔法をかけて欲しくて、教会に足を運び、懺悔室に怯えた後に、
神父様に魔法の言葉をかけてもらう事を繰り返していたのだと思う。
神父様とモノノ怪たちに見送られて帰宅する瞬間はとてもハッピーだったが、
その後の足取りが軽かった事はなかったなと、今になって思う。
そんな私の人生を語る事に意味があるのかはわからない。
ただ、自分がもし、異端だと思っている人がいれば、
また、これから先の話を通して、苦しい人生を歩んでいる人に「ひとりじゃない」と思って貰えれば、と思い、
不定期ながら人生を語らせていただこうと思う。