アメノミナカヌシと銀杏【霊能者が見るセカイ】
BLOG霊能者の日常巫の独り言霊能者が見るセカイ。八百万奇譚話
よく私の話には「アメノミナカヌシ」が出てくる。
私の父とはまた別の存在であるが、一番距離が近い存在であるアメノミナカヌシ。
アメノミナカヌシもまた寡黙な神寄りであり、多くを語らない。
ある日ふと思い立ち、「北斗」という名のつく神社へ行った。
「北斗」というぐらいだから北斗七星信仰の名残の神社であり、アメノミナカヌシであろうとあたりをつけて行ったのだ。
想像通り、アメノミナカヌシが御祭神として書かれていて、まあ、そうだよな。と雨の中長い階段を上がって行った。
大雨だったのもあり、その神社はとても静かで、何と言うか静かを通り越して寂しい雰囲気すら醸し出していた。
私は神社仏閣で傘を差さない。それは個人的に、雨や風、晴れも曇りも雷ですらも、全てはその場に行った際の神からのメッセージだと思っているからだ。
単純に、それを受け取らずに傘などで遮ってしまうのはなんだか勿体ない気がしていて、誰に言われた訳でもないが、傘を差さない、というのを個人的な信念としていた。
もちろんその日もずぶ濡れになった訳だが、それもまたアメノミナカヌシのメッセージなんだろう、と気にもせずにうろうろとしていた。
なんだか寂しい感じだね、と呟いたが、アメノミナカヌシは無言だった。
地元の人々に大事にされている雰囲気もちゃんとあったので、その理由は分からなかった。
その場の在り方がアメノミナカヌシが思うところと少々違う所があったのかもしれない。
アメノミナカヌシに無言を貫かれたまま帰る時間になったので、また長い階段を下りて行った。
そうして、神社を出ようとした時だった。
リュックを背負った年配の女性から声を掛けられた。
「銀杏は好きですか」
私は人にあまり警戒心を持たない。
「銀杏ですか?大好物です」
警戒心ゼロの表情でそう答えると、その方はリュックから銀杏がたくさん入った袋を取り出した。
「良かったら」
「良いんですか?」
「ここにも銀杏の木があるのですが、向こうのお寺にある銀杏の木の実の方が美味しいんですよ。たくさんあるので、お好きなら」
見ず知らずの人間に突然声を掛けてきたのは、ここが小さな集落故の警戒心からかと思ったが、そういう事ではなく、本当にただ銀杏をお裾分けしてくれるという事らしい。
「ありがたく持って帰れ」
上の方からアメノミナカヌシの声がした。
その声はとても優しく、あたたかかった。
その後、銀杏は紙袋に入れてレンジでチンするとすぐに食べられるという事を教わり、その方にお礼を申し上げてお別れした。
何処から来たのか、とか、この神社の由来は、とか、世間話にありがちな会話は一切なく、ただ「銀杏」のやり取りをしただけの時間だった。
相手の方も無理した表情を作るわけでもなく、なんというかとても自然体だった。
「一期一会というものはこれぐらい自然なものが良いな」
銀杏の袋を車で眺めながらそう思った。
先ほど書いた私は人にあまり警戒心を持たない」理由。
それは、人に興味が無い故だ。なので人見知りをしないとよく言われるが、人見知りをしないのとは少々違うのは自分が良く分かっている。
私は人としての部分が大きく欠落しているのだ。
そんな今一つ人の心というものが欠けている私に、この銀杏のやり取りは何かを教えてくれたような気がしている。